1.祖師堂の蘇生願満日蓮聖人
誕生寺で最も大きく中心となるお堂が祖師堂です。このお堂は、名称のとおりに祖師、すなわち日蓮宗の宗祖日蓮聖人をお祀りするお堂です。誕生寺は度重なる 災害でしばしば諸堂を失いましたが、その度に復興されて来ました。現在の祖師堂は、宝暦8年(1758)の大火によって焼失した後復興されていなかったも のを、10万人講という信徒の人々の浄財によって足掛け11年という期間をかけ天保13年(1842)に上棟、弘化3年(1846)に落慶したものです。
さて、日蓮聖人像は、お堂正面奥の丹塗りの須弥壇(しゅみだん)の上、金箔仕上げの立派な御宮殿(ごくうでん・お堂の形をした厨子)の中に安置されてい ます。足を組んで坐り両手には法華経を開き持つという、読経のお姿です。袈裟・衣は一般のお像のように彫刻されているのではなく本物をお着せしています が、その下は実は一糸まとわぬ裸形なのです。つまり、最初から袈裟・衣をお着せするように造られた像であるという訳です。これは、生ける日蓮聖人が今ここ にいらっしゃるようにお仕えするという、生身の日蓮聖人像なのです。
新本堂の建立など50万人講復興事業が進む中で、締めくくりとして日蓮聖人の尊像の修復に取り掛かったのは平成3年4月のことです。すると、思ってもみ なかったことに、尊像の胎内から多くの納入品が発見されました。納入品は、誕生寺第4世貫首日静聖人の願文をはじめとして法華経の写経、甘草・胡椒の薬草 など、また江戸時代に修理が行われた際に納められた願文の写経等です。この発見によって、貞治2年(1363)に造立された生身の尊像であることが明らか になりました。津波や地震、火災など、六百余年の間幾多の災害を乗り越えてきた誠に尊いお像であったのです。そして、復興事業の完成を祝うかのように、尊 像自ら本当のお姿を顕わされたのです。12月も押し詰まったころ、日蓮聖人のお像のお住まいというべき御宮殿・須弥壇と共に完全修復を終えた尊像は、再び 祖師堂に安置されました。
今から770年を溯る貞応元年(1222)2月16日、日蓮聖人は小湊の地でお生まれになりました。誕生寺ではこの日を記念して、聖人に報恩感謝の誠を 捧げる日蓮聖人誕生会を毎年盛大に行っています。生身の尊像の修復成った平成4年の誕生会は、例年にも増して意義深いものと言えましょう。