8.浄行堂の浄行菩薩
祖師堂の手前には勧募所など幾つか建物がありますが、その一つに左側の小さなお堂があります。浄行菩薩をお祀りした浄行堂です。お堂といっても覆い屋で、石造の浄行菩薩に直接お参りできるようになっています。
浄行菩薩は、一般的にはあまりなじみがない名前ですが、釈尊から末法の世の中に法華経を弘めることを命じられた大変重要な菩薩です。
釈尊が法華経をお説きになったのは、霊鷲山です。八十歳でご入滅される前の晩年八年間のことでした。釈尊の説法の場に列なり法華経の教えを聴いた菩薩たちは、末法の世の中に法華経を弘めることを、我こそはその任にあると釈尊に申し出ます。ところが、釈尊はお許しにはなりません。その時、地中から六万恒河沙という、それこそ無数の大変立派な菩薩たちが出現しました。地涌の菩薩です。この地涌の菩薩こそ、釈尊から末法の世の中に法華経を弘めることを命ぜられた菩薩なのです。地涌の菩薩のリーダーは、上行菩薩、無辺行菩薩、浄行菩薩、安立行菩薩の四菩薩です。
日蓮聖人は、この四菩薩について「釈迦・多宝・十方の分身を除いては一切衆生の善知識ともたのみ奉りぬべし」(「開目抄」)また「さればこの良薬(お題目)を持たん女人等をば、此の四人の大菩薩前後左右に立そひて、此の女人たたせ給へば此の大菩薩も立たせ給ふ」(「妙法曼荼羅供養事」)と、法華経のお題目を修行する私達を導いてくれる菩薩であると述べられています。
四菩薩には、それぞれ特長があります。浄行菩薩について見ますと、「浄行」という名前は「浄」という徳(はたらき)を表しています。汚れを洗い浄めるように、煩悩を超越するという徳を示しているのです。このようなことから、浄行菩薩のお体を洗い浄めながら一心に祈願することにより、自らの身体の煩悩をも滅していただくのです。特に、身体健全のご祈願をする方によって、熱心にお参りされるようになりました。
誕生寺の浄行菩薩像は、六十一世豊永日良上人の代、明治二十八年(1895)十一月に信徒の方によって奉納されたものです。合掌し白衣観音のように衣を纏ってお立ちになった姿は、誠に柔和で慈悲にあふれています。お堂には幾つもの手桶がおかれていますが、これはご祈願のお礼に人知れず奉納されたものです。