27.誕生泉の碑
日蓮聖人の誕生にまつわる奇瑞「誕生水」については総門を入って直ぐにある誕生水の井戸を紹介しましたが、別に誕生泉の碑があります。誕生堂右手の山際に並ぶ四基の石碑の中、右端の一基です。元々は現在の場所ではなく、誕生水の井戸の傍らに建てられていたものでしょう。
この石碑は項部を角錐状にした四角柱で高さ1m、幅33.5cm、奥行き28.5cm程、塔身ともいうべき部分のみで台石はありません。台石は失われてしまったのでしょう。
正面を見ると、額をはめたように全面を一段彫り込んでいます。天部はさらに円形に彫り込まれ、その中に井桁に橘の紋が刻まれます。紋の下には、「斯是誕生泉四時汲無尽/涌出此本源流派長不泯(斯れこの誕生泉、四時に汲めども尽きること無し。この本源に涌出して流派長く泯(ぼろ)びず)」と二行にわたって銘文が刻まれています。日蓮聖人が誕生された時、不思議に湧き出したという誕生泉は、銘文に謳われた様に汲んでも汲んでも尽きず、どのような日照りにも涸れることはなかったといいます。
左側面を見ると「元禄壬午秋九月大中孝立」と刻まれ、この碑は元禄十五年(1702)9月に二十六世貫首の大中院日孝上人が造立したものであることがわかります。さらに「石垣施主駿州井出氏為成」とあり、石垣があったこともわかります。宝暦八年(1758)の大火による焼失以前の伽藍を描いたと考えられる誕生寺古図を見ると、「誕生水」は柵に囲まれた井戸が描かれていましたから、井出氏が施主となった石垣はこの「誕生水」の柵でしょう。
既に紹介したように、元禄十五年、日孝上人は誕生山寺の碑、蓮華潭(れんげがふち)の碑も造立しています。また同年「小湊山十二景、同夜八景、同二十四境、同七嶺、附殺風景」と題して誕生寺山内や小湊村の景勝を書き記しています。その中の「二十四境」には「石門登医療窟天王廟市川橋双親塔愛太子誕生水胞衣塚薬王殿華鯨楼千仏閣多宝塔万仏宝殿鬼子母殿祖師影堂番神社潮音台弁天祠道場厳院山寺碑銘天道松雨降桜蓮華潭倉稲魂」とあり、石碑を造立した三カ所もすベて挙げられていました。誕生泉の碑は、誕生寺が日蓮聖人誕生の霊地であることを高く掲げた、その一つなのです。