52.江戸時代の年中行事(一)
誕生寺では、元旦の新年祝祷(しゅくとう)法要にはじまり、年間を通して様々な行事が行われ、数多くの信徒の参詣で賑わいます。この様な年中行事は時代と共に順次整備されていったもので、江戸時代に入ると現在のものに近くなるようです。そこで、江戸時代初期の年中行事について、延宝8年(1680)3月9日付の『高光山年中行事』によって窺ってみることにしましょう。
『高光山年中行事』を通覧すると、各宗派に共通して行われる行事と、日蓮宗にのみ行われる独自の行事に、大きく分けられることに気がつきます。
各宗派に共通の行事の中では、まず仏教の開祖釈尊の恩徳に感謝する法会があります。2月15日の「御涅槃会」と4月8日の「仏誕生会」がこれで、共に談義が行われています。
「御涅槃会」では、中央にこの世での生を終えて涅槃に入られた釈尊が横たわり、釈尊を取り囲むようにして弟子や信者、更に動物や虫に至るまで嘆き悲しむ様子を描いた釈尊涅槃図が堂内に掲げられ、法要が営まれたことでしょう。
「仏誕生会」は、花御堂に釈尊誕生のお姿の像を安置し甘茶を注ぐ花祭りとして、広く一般に親しまれています。釈尊は母親の摩耶夫人の右脇から誕生されると、七歩すすまれて、右手で天を、左手で地を指して「天上天下唯我独尊」と唱えられたといわれます。誕生仏のお姿は、このお姿なのです。甘茶は、九頭の龍が幼い釈尊に水を注いだという故事に拠っています。
彼岸の「法界回向」と7月14、15、16日の「孟蘭盆施餓鬼会」は、亡くなった親類縁者や先祖の諸霊、さらに一切の諸霊に回向供養する法会です。一般的な仏教の年中行事として、最も親しまれているものでしょう。明治以前は旧暦でしたから、春秋の彼岸は現在の3月・9月とは異なり、2月・8月になります。お盆も現在では暦通りに7月に行う地域と、旧暦に合わせて8月に行う地域があることは、ご存じの通りです。現在の誕生寺では、8日10日に海施餓鬼法要と流灯会・灯籠流し、13日に孟蘭盆施餓鬼法要を行っています。
1年の始めと終わりには、正月3ケ日の「天下泰平御祈祷並真俗円満之祈念」、そして除夜歳末の「満山会」があります。その年が無事であることを祈念し、また無事に過ごすことができたことに感謝します。正月の法会も満山で勤めると記されていますから、何れも山内塔中の僧侶が総て出仕する大法要でした。この他、正月11日には、「学文始」の祈祷も行われていました。この日は、鏡開きや、商家では蔵びらきが行われ、新年になって仕事を始める区切りとなる日の一つでした。